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2013年1月5日土曜日

アリバイ-When?-

「問題はさ、それがいつなのかってことだ」
 言って、男は笑う。
「それさえわかれば、君が違うっていうのは信じるよ。あぁ、信じるとも。否定根拠がないからね。この国の法じゃ、クロじゃないグレイはシロになるからね」
 言って、男は嗤う。
「だから俺は君を殺さない」
 言って、男は首をつかんだ。
 指がきりりと食い込んだ。
 小さく声を上げた。
 男は、にたりと笑って手を放した。
「君は知ってるはずだ。それがいつなのか」
 彼は悠然とつづけた。
 否定すると、またきりりと首を絞めつけられた。
「知ってるはずだ」
 少しの猶予を許そうとしない、低く張りつめた、縛り付けるような声。
 答えられない。
 知らないのだから。
 黙り続けていると、男はやれやれと首から手を放した。
「君も強情な人だ。そうやって頑固で居続けると、いつか誰かに殺されてしまうよ?」
 脅しじみた言葉だった。
 男はパンと手を打った。
「さて、それはさておき。君には少し俺の話を聞いてもらいたい。なに、そう長い話じゃないから、すぐに理解できると思うよ」
 男はにっこり笑ってこちらをみた。
「本当に簡単な話だ。まずひとつ、俺は昨夜君には会っていない。俺は行きつけの店でダチと一杯やってた、そういうことになってるんだ。これは理解できるよね?」
 男はまた、話を区切るようにパンと手を打った。
「そしてふたつ、君は今朝死んだ」
 返事をしないでいると、男はまた困り果てたような顔をした。
「そう難しい顔をするなよ、簡単な事だろ? 君は今朝死んだ、そう言ってくれればいい。それでコトは済むんだ……」
 男はまた笑った。
「ただ、俺は知りたいんだよ。君が、本当はいつ死んだことになるのか」
 男がこちらに手を伸ばして、胸元をトンと叩いた。
「君のこの体が、いつ、壊れたことになるのか、それが知りたいんだ。それさえ分かれば後はもう大丈夫。俺は君を罰しない。君が俺を陥れるんじゃないかと疑うこともない」
 男は笑う。不釣り合いで不気味なほど優しく。
「君は知っているはずなんだ。君が、いつ死んだか。それを教えてほしいんだよ。じゃないと、俺のアリバイに矛盾が生じるかもしれないからね。予防できるミスは最大限予防しておきたいんだ」
 男はまた手を伸ばした。
 また、首をつかまれた。
「さぁ、いうんだ」
 キリキリと、また、首が絞められる。ぷつりと肌が破けて、とろりと血が流れる。
「君は、いつ死んだんだ?」
 小さく息が口から洩れた。
 目の前が遠くなる。
 上から、ぐらりと黒いものが落ちてきた。
 あ、と思った。
 次の瞬間。

 男は、棚の下敷きになって殺された。

「問題はさ、それがいつなのかってことだ」
 そう言って、笑ってみせた。
 目の前には、椅子に縛り付けられた男が一人。
「知りたいんだよ。正当防衛を完成させるために。お前の死亡推定時刻を」
 首を掴んで、締め上げて、訊く。


「俺を殺しに来たお前が、罠にかかって押しつぶされたとき、最後に見た時計は……一体、何時だった?」

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